こども歳時記
〜絵本フォーラム第41号(2005年07.10)より〜
「人を殺してはいけません」と習ったことがありますか?
  大人の皆さんにお聞きします。子どものころに「人を殺してはいけません」と習ったことがありますか。教え諭されたことがありますか。ありませんよね、ほとんどの人は。でも、だからといって、知らないですか。皆さん、知っていますよね。習ってもいないのに、どうしてわかるのでしょう。
 昔の子どもは、生活体験を重ねていく中でさまざまな感情を感じたり、身近な人の感情を察したりしながら、教えられなくても、必要なことを身につけていっていたのです。

『壊れる日本人』
(新潮社)
 「命」を感じてほしいなら、ペットを飼えばいいという人もいます。でも、最近の幼い子の中には、「カブトムシ動かなくなっちゃった。電池かえて」という子も少なくありません。物心つく前から電池おもちゃに囲まれて育った子は、「失った命は戻らない」ということを当たり前だと感じる前に、電池をかえさえすればまた動き出すということを学習しています。
 テレビづけの子たちは、ドラマなどで殺された人が翌日には別の役で生きていることを繰り返し見ているし、さらにゲームやたまごっちで“リセットする”ということを何度も何度も体験しています。自然や生身のかかわりからさまざまなことを感じる機会は激減し、メディアによるそうした反復学習が激増しているのです。まっとうな人間になるための環境を用意してもらえなかった子どもたちは、これからどうなっていくのでしょうか。
 『壊れる日本人』(柳田邦男/著、新潮社)にも書かれています。「最近、東京で開かれた生と死に関するシンポジウムの後、懇親会で、ある小学校でスクール・カウンセラーをしている女性に会った。彼女によると、『この一、二年、小学校に入ってくる児童たちとの間で、会話が成り立たなくなっているのです。とても深刻です』という。(中略)自分の困っていることを言語化する能力が、驚くほど未発達なのだ。親との間でちゃんとした会話が行われているのか、疑問どころか不安さえ感じてしまうとのこと」(本分より)
 まず大人の皆さんが本を読んで、感じ、考えてみてください。しなければならないことやできることが見えてくるかもしれませんよ。(松)

前へ次へ