こども歳時記
〜絵本フォーラム第45号(2006年03.10)より〜
「初めての……」の季節ですね
 この季節は入園、入学など、新しい生活がスタートする時期でもあります。
 かくいう私も、この春より幼稚園に入園する娘を持つ母親です。初めての集団生活を前に、その小さな胸の中では楽しみと不安が入り交じっていることでしょう。
 小さな子どもはまだ経験も浅いため、初めての体験にはどうしても緊張してしまいます。そういう場面は入園などの大きな環境変化に限らず、ふだんの生活にもたくさんあるんですよ。バスや電車に乗る前、動物園に行く前、お買い物に行く前、病院に行く前……。そんなときにも絵本は大活躍。次の一歩を楽しむための心の準備をしてくれます。
 例えば初めてホットケーキを焼くときも、あらかじめ『しろくまちゃんのほっとけーき』(わかやまけん/作、こぐま社)を読んでいれば、その過程の楽しさが何倍にも膨らむことでしょう。子どもと一緒に「初めの一歩」を楽しむために、絵本を活用してみてください。そうすることで、子どもも心の準備ができ、親子の会話も増え、そこに至るまでの過程を、そしてその体験自体を10倍、いえ、100倍も楽しむことができると思います。

『しろくまちゃんのほっとけーき』
(こぐま社)
小さな翼を信じて……

『子どもの翼を信じて』
(こぐま社)
 新しい生活に対する不安は、実は子どもよりも親のほうが大きいのかもしれません。お友達できるかしら。みんなと遊べるかしら。先生の言うことを聞いて、いい子にしているかしら……。いつもいつも子どもが転ばないように先回りしてきた親にとって、手元から離れていくわが子への不安はとても大きいものです。
 最近、子どもを後ろから見守ることのできない親が増えたと言われています。それとともに、自分で考えて行動することのできない子どもも増えているのではないでしょうか。1人で何かを達成し、成長していくという経験が積みにくくなっているように思うのです。悲しい事件が毎日のように新聞をにぎわせ、小さな子を1人で歩かせることのできないような時代に、後ろから見守れと言われても難しいのが現実かもれしません。しかし、それは親子にとって避けては通れない道なのです。親がそれを避けてしまっては、来るべき子どもの巣立ちのときに、うまく飛び立てない、飛ばせてあげられないという問題にぶつかってしまいます。
 『子どもの翼を信じて』(ひぐちみちこ/著、こぐま社)という本には、子どもの巣立ちの日のために大切なことが書かれています。子どもは生まれたときから、巣立つための小さな翼を持っています。子どもの自己主張とは、巣立ちの準備のために、その小さな翼をパタパタさせているということ。その翼の風向きが親に向かってくることもありますが、その子らしさを受け入れ、親自身も翼を持った大人の鳥として飛んでいきましょう。そのように書かれています。親としてのあり方とともに、1人の人間としての生き方をも考えさせられる1冊です。
 私も今、不安でいっぱいです。しかし、この3年間、その心と体を、そして小さな翼をはぐくんできたことを信じ、できるだけ後ろから娘を見守っていきたいと思っています。(うちだ・ゆうこ)

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