〈地球のステージ〉が゛伝えるもの
桑山 紀彦(精神科医・歌手)



写真  これまで49ヶ国を歩いてきました。どこも紛争と貧困の国で、NGOによる医療救援活動を医師としての仕事がほとんどでした。そこで見たもの、それは紛争や貧困の中に生きているにも関わらず、こちらが言葉を失うほどたくましく、豊かな笑顔をたたえた子どもたちでした。「なぜこんなにもたくましくいられるのか…」それはいつも医療活動をしながら抱えていた疑問だったと思います。しかし、紛争国で頻繁に仕事をする自分は、自分なりにその理由を見つけた思いでした。まず、工夫の力が宿っていること。それは紛争、貧困のような困難さがかえって子どもたちを強くした結果でしょう。自ら考え、生き残るためにありとあらゆる情報網を駆使して紡ぎ出し合うその工夫の力は、現在の日本の子どもたちの中に失われているものかも知れません。ついで、働く大人を見ていること。これは、リアリティ(現実味)につながっていきます。今日の食卓が父親のどんな働きによってもたらされているかを、こういった国々の子どもはちゃんと知っているのです。それは皮肉にも「困難」によってもたらされた「実経験」という産物がもたらす賜物だと思いました。日本の子どもの経験不足、工夫の力の低下、リアリティ(現実味)の低下は憂うべきものです。だからこういった紛争、貧困の国の中でたくましく生きる子どもたちの姿は逆説的に、日本の子どもたちへの強烈なメッセージになると思っています。
 それを少しでも伝わりやすい形で伝えるため、私は全国を「地球のステージ」というコンサートステージで回っています。その大画面とライヴ音楽の中に映し出される紛争の国の子どもたちの笑顔に圧倒されたという感想文をこれまでたくさんもらってきました。それはビデオ映像という仮想空間ではありますが、その「地球のステージ」を体験したことから、自分なりのリアリティを探し始める日本の子どもたちに出会って、少しほっとしています。

…「地球のステージ」開催お問い合わせ…
TEL 023―625―1182(担当・升川)
ホームページアドレス http://www.dewa.or.jp/stageone

絵本フォーラム23号(2002年07.10)より

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