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報告者
東京5期生
安田 富美
第5編   〜 絵本講座をやってみよう 〜
2010年01月30日(土) 家の光会館
主催:NPO法人「絵本で子育て」センター  共催:ほるぷフォーラム社
協賛:岩崎書店・偕成社・金の星社・こぐま社・鈴木出版・童心社・ほるぷ出版・理論社
特別協賛:ラボ教育センター

 暖かなよい日和の 2010 年 1 月 30 日、今年最初の東京会場での養成講座が開かれました。 この日は松居直先生のビデオ講演 (芦屋会場、 09 年 12 月 12 日) から始まりました。

 「絵本のよろこび」という講演は、先生が戦後「生きるとはどういうことか」というテーマにぶつかったという実体験から始まりました。戦争中は、「男子は戦争に行って死ぬもの」と教えられてきていたので、終戦という事実に「喜び」を感じるのではなく「これからどういう風に、なぜ、いつまで生きるのか」と考える日々を送られていたそうです。そんなある日、戦争中は夜に灯が点ることのなかった古本屋で戦争中には見たこともない新しい本を見つけ、その中でトルストイ全集をお父様に買ってもらい何度も読まれたそうです。そして、トルストイの言葉に探していた「生きるということはどういうことか」「人の生き方・死に方」を知ることができたそうです。

  「人の生き方・死に方」は、その人がどれだけ豊かな言葉を持っているかに比例し、その言葉は教わるのではなく日常生活の中で自然と獲得されていくものであってほしいというようなお話を続けてしてくださいました。言葉は国から貰ったものではなく、母が子どもに語りかける言葉や自然の中での子ども同士の遊びを通して言葉の世界を体験することでその人のものとなるのだそうです。また、言葉とは聴いて覚えるものだそうです。

 先生の言葉は、子どものころに遊んだ鴨川や植物園で感じた空の変化、聞こえてくる雨音や風の音、毎晩の「読み聞かせ」で聞いたお母様の声と想像力をかきたてる絵の中で育まれたとおっしゃっていました。 「語り」、「読み聞かせ」、「詩集の音読」など方法はいろいろありますが、子どものプレッシャーになるような聞かせかたではなく、「読むのも勝手、聞くのも勝手」というスタンスがいいともおっしゃっていました。それらの経験は、してもらって楽しかったから子どもにしてあげたいと言葉とともに次世代へ受け継がれていくことになり、そこで培われた経験や言葉は、先生がおっしゃられるように「思いもつかないことの連続である人生を「生きる糧」「見えない大切なことを見る力」になるのではないかと思いました。

 午後は、森ゆり子理事長の講演「絵本を読んであげましょう」。普段、読むことはあっても読んでもらうことの少ない私たちに『ちびゴリラのちびちび』 (ルース・ボーンスタイン作 いわたみみ訳 ほるぷ出版) を読んで下さいました。これぞ「読むのも勝手、聞くのも勝手」という声の響きに今回も心を奪われてしまいました。
そして、絵本の読み方についていくつかお話しれました。まず、『ちびゴリラのちびちび』では、普段なかなか口に出すことのできない「だいすき」という言葉を、絵本を通して語りかけられること。絵が示す時間、変化そして作者の遊び心について。
  次に『いないいないばあ』 (松谷みよ子あかちゃんの本、瀬川康男 / 絵 童心社) では、絵の変化に加え、出版後の「いない いない ばあ」という言葉の影響力、動作の意味について。言い方は違っても各地に同じ遊びがあるのは、昔から子どもは<いない いない ばあ 遊び>を通して一時(いっとき)いなくなっても最後には相手の顔を見ることで安心したところに戻ってこられるのだという安心感を知っていく「光と闇」「別離と再会」の訓練が自然とされていたなどです。

 人の感情は一方的でなく上記のように「対」 ( つい ) になっているそうで、「愛された経験」がなければ「愛すること」ができないのだそうです。そのことは、現在「いじめ」が行われる原因になっているのではないかと考えられていて、どうやって子どもと接したらいいのかわからないお母さんたちに『ちびゴリラのちびちび』のような良い絵本を読み聞かせることが愛情を伝える=愛された経験になると伝えることが大切だと説かれていました。

 現在は、条件つきの愛情が多くなり、子どもが丸ごと受け止められることが少なくなってきているため、子どもに楽しい記憶が足りなくなってきているそうです。楽しい記憶は何かあったときに生きていく力になるものです。子どもがお母さんに絵本を読んでもらっている時間は、親子が共に時間を過ごす体験となります。その時に必要なのは、あらすじだけの本ではなく、豊かな絵と言葉で構成された良質の絵本なのですと。
  人は言葉に支配されていくものだそうで、粗雑な言葉しかしらないと粗雑な人格が育ち、想像性が希薄な子どもたちが事件を起こしてしまうという悪循環を生んでいるそうです。
その連鎖を止めることができるのが読み聞かせであり、実際に読み聞かせを通して家庭で言葉を育て、親だけでは伝えきれないことを優れた人の優れた言葉で伝えてきた松居直さん親子の体験談を語ってくださいました。
そして、死んでしまいたいと思った女の子が、昔読んだ『はなをくんくん』 (ルース・クラウス / ぶん、マーク・シーモント / え、きじま はじめ / やく) を手にし、その中にメッセージを見つけたことで命を取り留めた話や、森元首相が「小学校に PC を導入したことは間違いだった」と回想するように、ゲームやアニメの輸出国である日本だからか、子どもに与える影響よりも経済を優先している国の姿勢は大きな問題なのではないかと警鐘を鳴らされていました。
  そして最後に『さっちゃんのまほうのて』 (たばたせいいち、先天性四肢障害児父母の会、のべあきこ、しざわさよこ / 共同制作、偕成社) を私たちに読み聞かせてくださいました。人と違う身体的特徴を受け入れていくさっちゃん、その姿から「さっちゃん」の気持ちをくみ取ることを学ぶ周りの子どもたち。実際に周りにそのような子がいなくてもたんたんと読み聞かせをしてもらった子どもたちは、その声を通してさっちゃんと同じ状況にある人の気持ちを知ることになるのではないかな、と思いました。

 その後、藤井代表のお話がありました。
  「早期教育」や「子どもを生き急がせている社会」により、子ども時代を体験して大人になった大人が少なく、生物的に大人でも行動が子どものままの人が増えていると危惧されていました。子ども時代には読み聞かせで「愛」を伝え、学校で知識や技術をバランスよく学ぶことが必要なのに後者の方に偏ってしまっていると。

 最後にグループディスカッションに参加させていただきました。みなさん毎回毎回、ご家族の協力を得、時間と費用をかけて足を運んでくださっています。本当にありがとうございます。

 年齢も職業も住む環境も違うみなさんが意見を出し合い語り合った時間はかけがえのないものとなるはずです。いよいよ最後のリポートです。この一年に学ばれた全てを出し切ってくださいね! 最終日にみなさんの晴れやかなお顔を拝見するのを楽しみにしております。 (やすだ・ふみ)

★芦屋会場リポート 第1編/第2編/第3編/第4編/第5編/第6編
★東京会場リポート 第1編/第2編/第3編/第4編/第5編/第6編

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