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報告者
東京7期生
田中 潤
開校式   〜 絵本について 〜
2011年5月21日(土) レインボービル
主催:NPO法人「絵本で子育て」センター  共催:ほるぷフォーラム社
協賛:岩崎書店・偕成社・金の星社・こぐま社・鈴木出版・童心社・福音館書店・ほるぷ出版・理論社

 5 月 21 日。この日は最高気温 29 度の予報が出るほどの暑い一日となりました。東日本大震災後の混乱は落ち着き、日々節電に努める東京の街。前日には不安を感じるような余震もありました。それでもこの日、関東のみなら ず東北や東海北陸、さらには遠く九州や沖縄からの受講生が会場となる飯田橋レインボーホールに元気な姿で現れ、第 8 期「絵本講師・養成講座」(東京会場)は無事開講しました。

 最初に、 3 月 11 日に起こった東日本大震災の被害にあわれた方々や関係者に対し1分間の黙祷を捧げます。瞼を閉じ、悼み、祈りながら、それぞれが今という時を静かに見つめました。

 そして始まった開講式。司会を務められたのは北素子氏(東京 2 期)。檀上には花が飾られ、厳粛な雰囲気に少し緊張気味の受講生たち。まずは主催者代表として、NPO法人「絵本で子育て」センター森ゆり子理事長からご挨拶です。絵本講師・養成講座の修了生は現在全国で 900 名、「街を歩けば絵本講師にあたる」というような日がくることがご自身の夢であられるとのこと。
  また、世界は絵本で変わるという人もいるけれど、そこまでは言えずとも変えるもののひとつにはなりえると思うというお話など、受講生への最初のメッセージを優しく強く述べられました。

 続いて、ご列席いただいた皆様からの祝辞。絵本講師として活躍されている先輩である、はばたきの会東京支部副支部長の岡部雅子様、そして「絵本で子育て」センター理事の山中光江様からのあたたかなエールのような祝辞を聞きながら、目の前の絵本講師の姿を真剣なまなざしで見つめ、言葉を受け取る受講生たち。

 太陽出版の籠宮敏治様は、読書離れや出版業界の現状について語られ、電子書籍が普及してきている、けれど『絵本は永遠だ』と、絵本講師の草の根的活動について強い期待を述べられました。

 開講式が終わるといよいよグループ初顔合わせ。当講座では恒例の、机と椅子の大移動。今回の東京会場受講者 は 61 名。 8 グルー プに分かれてからリーダーとサブリーダーを決めます。向かい合ったメンバーは、いったい次は何をするのかとそれぞれが戸惑い顔で緊張気味。私たち聴講生も一人ずつグルーブにオブザーバーとして入り、皆さんの緊張をとくお手伝い。最初に自己紹介をしたら、誰もが絵本に関する強い気持ちやエピソードをたくさん持っていて、想いを語るその表情も目も生き生きと輝き出しました。お互いの話に共感し、興味を持ち、皆あっという間に打ち解けてしまいました。

 グループのまま昼食をとり、午後はいよいよ記念講演。この日講師として登壇してくださったのは松居直先生(児童文学家・福音館書店相談役)です。「言葉」とはどのようなもので、人が生きていく上で「言葉」がどれほど重要であるかということ、子どもの心を育むことの大切さなどについてお話しいただきました。それぞれの絵本への解説や絵本の持つ力についてなど、そのどれもが絵本講師として心にとめておくべきことばかりで、なかでも「私は母から言葉をもらった。それに気づいたとき、母から身体をもらったこと、命をもらったことに気が付いた」とのお話は、私の心を強く揺さぶりました。人として大切なものを伝えていくことの意味を教えていただいたように思います。

 今回、予定では第一回講演の講師は中川正文先生(作家・大阪国際児童文学館特別顧問)でしたが、先生の体調がすぐれず、残念ながら東京会場での講演はご欠講となりました。ほんの数日前に中川先生から松居先生に、「代わりに記念講演をやってほしい」とのお電話があったとのこと。お二人は昔からのお知り合いだそうです。中川先生のご快復を心よりお祈り申し上げるとともに、会場後方に並べられていた『すみれ島』』(文・今西祐行 絵・松永禎郎 偕成社)の朗読を、ぜひ中川先生の生のお声で、第 8 期東京会場でもお聞かせいただけることを願っております。

 記念講演のあとは、再び机の並び替え。そして藤井勇市専任講師からのお話です。近年の社会の変化、豊かさに伴う弊害について触れ、絵本講師の果たす社会的役割について述べられました。また、東日本大震災が起こったことで、これまで自分のことだけだった時代から他者のことを考える時代へと大きな転換期を迎えたといえるのではないかと語られました。そして今まさに起こっている原発問題の事例から「メディアリテラシー」という言葉を示され、様々なメディアからの情報を自律的に捉え追及する力を持てるよう、私たちは深く考え学んでいかなければならないとお話しいただきました。「近代文明の終わりを 3 月 11 日が作ったのではないかという気がする」という言葉は、誰の心にも深く重く残ったことと思います。

 引き続き始まったグループワーク。絵本講師というあたたかで優しいイメージとは真逆のような藤井講師のお話であっただけに、受講生たちはしばし言葉が出ないといった様子でした。でもそれもまた「絵本講師・養成講座」を通して気付き、学ぶ大切なこと。皆さんの様子を見ながら、 1 年前同じように戸惑った自分の姿を懐かしく思い出しました。話し合いは手探りのように始まりましたが、藤井講師もおっしゃっていたように『人間7〜 8 人集まれば社会の縮図』。年齢も経験も違う皆さんがそれぞれにいい役割を果たしつつ討議は進み、時間はあっという間に過ぎていきました。そして話が尽きないまま終了時刻を迎え、連絡先を交換しあったりして名残を惜しみつつ、皆笑顔で会場を去っていきました。「絵本で子育て」の思いで繋がる同志たちの初めてのグループワークは、大変有意義な時間であったと思います。

 ほんの数時間前に出会った人たちが、もう仲間になっている。絵本を学び、絵本で子育てすることを学び、自分や周りの社会のことを考える。この日、一歩を踏み出しここに来たことで得るものの大きさは計り知れないと思います。この講座を終えるときに手にするもの、それは絵本講師の資格や修了証だけではなく、人生を輝かせることのできる、今より素敵な自分自身であってほしいと願います。(たなか・じゅん)

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