小沢俊夫の昔あったづもな  

第十二信

この国は歴史の岐路に立っている-6-


安倍政権が牙をむき出しにしてきた

 昔ばなし大学であちこち駆け回り、おまけにパソコンが壊れている間に、日本の政治状況は早いテンポで悪化している。

 憲法違反の安保関連法案を強行採決で成立させた後は、国民の目を経済に向けさせ、まるで「アベノミクス」で経済がよくなってきているような錯覚を振りまいている。甘利大臣の斡旋容疑がばれると、すぐに辞職させて、そのことで逆に国民の点数稼ぎをする。最近のNHKの世論調査では、なんと安倍内閣の支持率が上昇し、不支持率が下降しているという。世論調査の仕方を疑いたくなる発表だから、数字は信じがたいが、その傾向があることはたしかなのであろう。

 国民は、あれだけ強く反対したのに法律が成立してしまって、経済に目を向けられたら、あっさりと安倍政権支持に切り替わるのか。そんなことはとても信じられないが、NHKの世論調査は、少なくともその傾向があることを示しているのであろう。 安倍首相とその周辺にいるあくどい政治家、官僚たちがその傾向を見逃すはずはない。次々に牙をむき出しにしてきている。

 

安倍首相が憲法九条の改定を公言した。


 2月3日の衆議院予算委員会で、稲田朋美というほとんど極右政治家が、九条一項の戦争放棄、二項の戦力不保持規定にかかわらず自衛隊が存在するのは「立憲主義の空洞化」であると質した。これに対して、安倍首相は、「七割の憲法学者が、自衛隊に対し憲法違反の疑いを持っている状況をなくすべきだという考え方もある」と述べた。  聞いて呆れるとはこのことだ。国民を馬鹿にしきった発言である。安保関連法案審議の時、憲法学者の多くが(九割と報じられていた)、この法案は憲法違反であると批判した。にもかかわらず安倍首相はその批判には全く耳を貸さず、強行採決したのである。この事実は、国民の脳裏にはっきり残っている。

 もし、本当に憲法学者たちの意見に従うべきだと考えるなら、あの時、安保関連法案は違憲だと主張した多くの憲法学者たちの意見を尊重すべきだったのだ。そして、安倍首相は今から、一連の安保関連法を廃案にするべきなのだ。この一連の発言は、国民を馬鹿にしきっている。(憲法学者たちは、これほどいい加減にあしらわれても黙っているのか。)  

 自衛隊については、歴代の自民党内閣の見解があり、大方の国民の支持をえた見解とされている。それは、日本が外国から急迫不正な侵害を受ける際、それを阻止するための必要最小限の実力を保持する組織であり、戦力には該当しない、という見解である。稲田朋美や安倍首相は自民党員でありながら、この歴代内閣の見解をどう受け止めているのか。


高市早苗総務大臣、公平を欠く放送には電波停止がありうると脅し発言
 

 これもほとんど極右的政治家の高市早苗総務大臣が、2月8日の予算委員会で、放送局が政治的公平性を欠く放送を繰り返したと判断した場合、放送法4条違反を理由に、電波法76条に基づいて電波停止を命じる可能性があることを述べたと伝えられている。そして、「政治的公平性を欠く」の事例として、「国論を二分する政治課題で一方の政治的見解を取り上げず、ことさらに他の見解のみを取り上げてそれを支持する内容を相当時間にわたり繰り返す番組を放送した場合」と述べたということである。これは明らかに、先般の違憲な安保関連法案審議に対する批判的番組を念頭に置いた発言であろう。正に権力者の脅迫である。

 社会におけるジャーナリズムの役割は、権力者に対して異なる意見を提出することに他ならない。権力者による権力の行使は必ず強力である。そして、無理な行使になればなるほど強引になるのは必然である。そうなると、それに対する異なる意見の提出も強力に行わなければならないのは必然的なことである。先般の違憲な安保法案をめぐる権力側とジャーナリズムとの関係はまさにそのようなものであった。そして力で押しきったのは、権力側だったのである。それを今、「電波停止もありうる」と担当大臣が発言するのは、まさに権力者による脅迫である。 電波停止の一歩手前のことがすでに起きている。以前にも取り上げた、古館伊知郎、岸井成格両キャスターの報道番組からの降板である。

 

参議院選挙の一人区では護憲勢力が統一候補で勝利すべきである


各政党は護憲と違憲安保諸法廃案の一点で共闘しなければならない。ほかの政策の差異を論じている場合ではない。この選挙で自民・公明に勝利させたら、日本は軍事独裁国家に突き進む。各政党はその責任を自覚すべきである。そして、選挙民はそういう政党に投票しなければならない。それは未来の日本を生きる子どもたちへの責任である。子どもたちを軍事独裁国家に追い込んではならない。そのために、一人でも多くの友人たち、隣人たちに夏の参議院選挙が重大であることを知らせよう。

この通信を読んでくださった方々にお願いしたい。一人でも多くの知人、友人に、夏の参議員選挙では護憲、違憲安保諸法廃案の候補者に投票するよう、よびかけてください。それはささやかではあるが、確実な、強力な国民の権利の行使なのです。
(2016.2.10)

(おざわ・としお)


小澤俊夫プロフィール

1930年中国長春生まれ。口承文芸学者。日本女子大学教授、筑波大学副学長、白百合女子大学教授を歴任。筑波大学名誉教授。現在、小澤昔ばなし研究所所長。「昔ばなし大学」主宰。国際口承文芸学会副会長、日本口承文芸学会会長も務めた。2007年にドイツ、ヴァルター・カーン財団のヨーロッパメルヒェン賞を受賞。小澤健二(オザケン)は息子。代表的な著作として「昔話の語法」(福音館書店)、「昔話からのメッセージ ろばの子」(小澤昔ばなし研究所)など多数。

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